■ 先ほどチラッとお話しされた2人の関係性が気になるのですが、折坂さんが「兄貴」と呼ばれていたのですが、そんな感じですか。
折坂悠太(以降:o)ああ、でも、実の兄感はありますよね。ちょっと煙たさもあるというか。でも燿児さんは、友達ですね。友達がどこまで指すか分からないですけど、友達は他にもいると思いますけど、何も用事がないのに会う近しい友達っていうのが、私にはあまりそういう人がいなくて。燿児さんは唯一そんな友達というか。何もないけど会う人ですね。
寺田燿児(以降:y) フリスビー仲間。
o そうそう。なんかでも、そんな友達のできにくい私がなぜ燿児さんとは長い関係なのかと言うと、燿児さんは生意気な年下が結構好きで。それは稀有な才能だと思ってて、今日多分いつもの2割くらいしか生意気なことを言ってないんです。普段すごいんですよ、結構ひどいんですよ(笑)。自分でも反省するんですけど。でも燿児さんは、私の甘えですけど、それを聞いてくれている。普通だったら嫌になると思うんですけど、そういう後輩がいたら。それが燿児さんの寛大さですよね。
y LINEとかでは、結構砕けたこというのは僕なんですよ。それをあしらうのがオリーで、「何言ってんの?」と。でも本当は僕の方が大人なんです。それで関係性が成り立っているというところはあります。
ー漫画を描き始める前。新宿『ベルク』で行われたプロット会議
■ 生意気な年下が好きなんですか?
y 好きっすね。オリーは、突然「燿児!」って呼んできたりする。高円寺のライブハウス『ウーハ』に遊びにいった時に「燿児はさ」って言ってきて、うるせーなと思って。
o この作品を描き始める前に『ベルク』で話したの覚えています? プロット会議?みたいなのしましたよね。
y うんうん。
o 新宿の『ベルク』っていう素敵なお店があるんですけど。そこで燿児さんとあった時に、「次の漫画の構想があるんだけど」という感じで、ちょっと企画会議的なことをやったんですよ。その中で、おぼろげなんですけど……出たアイデアがいくつか使われている感じがするんですけど、どうですか?
y いや~、無いかな(笑)。シナリオを相談したら、すごい喋り始めて。
o ストーリー全部、言いましたよね。
y 全部ね。
o その一部ちょっと使われてますよね? 今日ちょっとこの場で確認したいんですけど。飼い猫がソルジャーになって、みたいな。それ、でも結構根本的なところですよね(笑)。
■ 飼い猫がソルジャーにというのは『DARK CONTINENT/暗黒大陸』の自分インタビューにも収録されていますよね。
y でもその段階では、徴兵としか書いていない。ソルジャーになるっていうのは、、、ひょっとしたら。
o ちょっとわかんないですけど。
y すごいこと言ってたよね。ちょっと覚えて無いけど、絶対ないわ!って思いながら、ほうほう聞いてた。
o 結構、話に入ってる気がしたんですよね。まあいいんですけど。で、私が聞きたかったのは、最後の「バルス」的なセリフです。その部分が、私が読んだ時は吹き出しが白紙だったんですよ。この『TORA TORA TORA TORA』というのは、どういう経緯で思いついたのですか。
y 呪文によって何かが解決されるとなった時に、その呪文は何だと考えたときに、ああ、真珠湾攻撃の時の「TORA TORA TORA」を思い出したんです。あとがきにも書いたんですけど、太平洋戦争のきっかけにもなったと言える言葉なんですが、それを終わりの呪文にしたら、いいんじゃないかと。登場するのがトラネコでもあるし、それを掛けて。
ー幣原喜重郎さんの言葉の力「平和の狂人にならないといけない」
■ 始まりの呪文を終わりの呪文にして、戦争を終えたいという思いですか。
o あと、幣原さんの話が出てくるじゃないですか。この話、燿児さんとしたことありましたっけ?
y ないです。
o ないですよね。私もこれね、好きっていうか、めっちゃすごいなと思っていて。
y 10年くらい前に高野寛さんがfacebookで言ってて知った。
o そうなんだ。私は別のミュージシャンが言ってたのを10年弱前に見て。すごいなと思って。
y じゃあ、同じ時期かもしれない。
o 幣原喜重郎さんが現行憲法を作るときに、憲法をプロデュースしていたというか。
y 吉田茂とかGHQとかと一緒に、新しい憲法を作ったんですよ。
o その時の覚書みたいなこと、当時の秘話を書き起こした秘書がいて。その文章が凄くて。今となってはどこまでが本当か分からないんですけど、文章がすごい。言葉の説得力があります。あとがきにも書かれていますが、日本国民は今このタイミングじゃないとできないことがある。平和のための狂人にならないといけないとか。燿児さんもそれを見てたんだと思いましたよね。
y ウクライナとロシアの戦争のこともあって。こういう時にTwitterとかで何かを言いたくなって、誰かに影響するような言葉をあげたくなるんだけど、あまり得意じゃなくて。作品を通じて、意思を発表できるのが嬉しいんですよね。
■ あとがきは選挙の前に出したかったんですよね。
y 参議院選の前に漫画を出して、これを読んだ人に、今の政権与党が戦争に傾いているのを知ってもらう。投票に何らかの影響があるといいなと思って出したんだけど、間に合わなくて。自分の意思を作品を込められるのが一番かっこいいなと思って、すごい嬉しいんです。Twitterとか僕はオリーみたいに上手くないから(笑)。オリーは、アルバムを出す告知より、政治的なツイートの方が伸びるから。いつもその悩みをLINEでくれるんですよ。
o なんでこればっかりなんだろうって(笑)。
y アルバム『心理』出しますのツイートよりもね。
o 難しいですね、分かんないですよ。相談したいですよ、皆さんに。疲れますね。
y 疲れてますか。
o 疲れてる場合じゃないんですけどね。
o 今後の構想はあるんですか。次回作に向けてプロットがあるとか。
y 1回音楽に戻ったりしようかなと思って。
o え。
y それは冗談ですけど。でも今回もすごくしんどかったので、2度とやりたくないです。……でもやるんでしょうね、忘れられたくないので。
ー次回作の構想はスマートフォン? 人をもっと描きたい
▷(参加者からの質問)質問いいですか。戦争のテーマ以外で描きたいものはあるんですか。漫画で描いてみたいテーマとか。
y スマートフォンが世界を滅ぼすというテーマを描きたいと思っています。みんなが歩きスマホしている時に、世界が滅んでいくという。思考が全てスマートフォンに奪われて、スマートフォンをちょっとやめた方がいいんじゃないの?って言うことを言いたい。
o なんか、中年の説教みたくなってきましたね(笑)。
y でもそれだけじゃないですよ。宇宙人がやってきて、地球人は一体どうなってるんだみたいな。いろんな要素があって。
o ちょっとシュール方向ですか。
y あまりシュールな方向に走りたくないけど。
o 今、どうなんですか。こういう曝け出した作品に疲れたみたいのはあるんですか。
y いや全然、これからでしょ。
o 私もそう思ってたんですよ。全然もっといけるやろって感じはしますよね。
■(司会)今回人柄を描いてみて、もっと描きたいと言う気持ちは強くなりましたか。
y そうですね、自分にもできるんだという気にはなりましたね。前作は、結構雰囲気で描いていたところがあったので。「人」を描くきっかけになった気はするので、もっと描きたいですね。
■ 折坂漫画について聞きたいのですが、折坂さんの日常を描いた漫画をライブ会場で配布していますよね。
o そうですね。なんかよくやってくれてましたよね。
y 勝手に。
o そう。でもまあ、お願いしている時もありましたけどね。
y 最初は合奏の時で。まあ、折坂を中心とした日常を描いたら面白いのかなと思って。
o それをもう折坂漫画じゃなく、燿児漫画にしたらいいんじゃないかという気もしますけどね。エッセイ漫画。
y 自分のね。
o 燿児さんと話していると面白い話いっぱいあるんですけどね。そういうの読みたいですけどね。
■ そういうのに行かないのが燿児さんという感じもします。ちょっとひねくれているというか。
o まあやったらいいんじゃないですかね、つべこべ言わずに。ちょっと暴力的ですけど。でもそれは燿児さんが考えることですからね。
ー戦争の恩恵を受けている中での、戦争反対と言うことへの葛藤
■ 他に皆さん、ご質問などあればどうぞ。
o はい、あちらの方。
▷最後の部分ですが、呪文を唱えたら、トラに戻ってしまうところで質問です。主人公は呪文を唱えることに葛藤していたのかなと思うのですが。もっと話がしたいと。葛藤したのは、なぜなんだろうと思いました。質問の意味、分かりますかね。※1
o 私は分かりました。
y(ヤンにとって)ウーがトラに戻ることを望むんじゃなくて、ウーのままでいてほしいと。それは、なぜかってことですよね。それは、友達が欲しかったから。
o はい!(挙手して) 私が読んで思ったのは、要はあの呪文を唱えることで、一つの生活が終わるわけじゃないですか。ウーとか、猿の上司の存在とか。戦争の技術によって、いろんなものが生活の中で作られている。私が聞いた話では、自分達が音楽を作っているように、真空管だってナチスが依頼して作ったものだし。戦争のために作られた技術によって生活ができていることは少なからずはあると思っていて、その中でどうしようもなく生きている。生活の中に戦争から作られたものがある。その一言、呪文を言うことによって、それを手放すことになる。それを唱えるか唱えないかは、すごい葛藤だなと。現実世界でも同じで戦争反対と言うことは、言ってみれば今生きている場所に対して反対と言っている側面もある。戦争もシステムですから、いろんなシステムの中で我々は生きていて、その恩恵も受けている。それでもその一言を唱えるかということは、一つの印象的なこの作品のメタファーだと思って読んでいました。
y 素晴らしい。
o 全然違う?
y いや、いいと思う。
※注1 ここは最後まで悩んでいたところ。読者には結局どちらなのかは知らされないが、呪文を唱えることでウーは消滅してしまうのか、それとも猫のトラに戻るだけなのか。物語のクライマックスであり、ヤンに苦渋の決断を迫らせることで、ヤン自身が加担してきたことの反省 と友との別れの心情を描きたかった(寺田談)
■ 原画展をやる理由について、前にお聞きした時「こんなに頑張ったのを褒めてほしい」と燿児さんがおっしゃっていました。原画を仕上げる前に描いているイラストの量が本当に多くて。1枚1枚、描き込まれている。面白いのが、原画の方がラフに仕上がっていて、下書きの方が描き込まれている。それはどういう理由でしょうか。
y そうですね。あまり書き込むのをやめたんですよ。そしたらオリーに描き込みが足りないと言われて。
o それはちょっと思った。
y バランスがまだつかめていないところがあります。
ーどこまで描いたら完成か。「ここでやめろ」とおぼろげに声が聞こえる(笑)
■ はい、ではご質問どうぞ。
▷私は小学校の時に、『はだしのゲン』の実写版を観に連れて行かれたんですが、戦争のシーンがトラウマになってしまって。それから戦争のドキュメンタリーとか映画とかも全然観れなかったんですけど、今回燿児さんの漫画は普通に読むことができました。
y どっちがいいんでしょうね(そういうシーンを描くもの、描かないもの)。僕は描かない方を選びましたけど。
o そこで出てくるのが、エンターテインメントの役割というか。もちろんそういうショッキングな表現も必要だと思うんです。そういう棘みたいなものをどんどん抜いていくと、嘘になっていくものだと思うので、私は。それはそれで誰かがしっかりやっていくべきだと思うんですね。自分たちがそういう血とか傷とか、焼けただれた皮膚とかを表現するよりも、そういうものを踏まえて今どう生きていくかというのが、自分達の役割だと思うんです。それをどう提示できるかが漫画であり、歌であると思っていて。
一番怖いのが、忘れていってしまうことが恐ろしいことだと思っていて。どんなにポップなことをやっていても、それを加味した上での表現を考えていかなきゃいけないんだろうなと。韓国のアイドルの方とかも見ていても、歌詞の一つひとつが直接的には言ってないけど、メッセージは読み取れる気がして。それが表現の力という気がしていて。そこは頑張っていきたいなと私は思っています。
y すごいリアルだなと思った戦争体験の話があって。陸軍に行った人が戦時中に上官が見ている前で、同僚の友達と本気の殴り合いをさせられたんですって。力を弱めてやっていたら、上官に自分が思いっきり殴られて。しょうがなく本気で殴り合いをするっていうのがあったと知りました。それをTwitterで読んだ時に、その情景がありありと思い浮かんできて、うわ、嫌だなあと思って。そういうことを想像させるきっかけのようなものが書けたらいいなと思いますね。
o でも表現とは別で、そういう状態の焼き増しみたいなことが世の中に多いじゃないですか。殴り合いをさせるとか、縦社会のノリみたいなこととか。そんな空気を感じ取った時に「それはあかんやろ」と言う事も必要かなと思います。それは一人間としてやっていくべきなんだろうなと思いますけど。アーティストの表現としてできることと、人間としての言葉やできることの役割も違ったりもしますからね。
■ 他にご質問がある方いらっしゃったら。はい、どうぞ。
▷シンプルな質問なのですが、絵のことなんですけど漫画はここまで描いたら完成とか、どこまでの描いたら完成とかありますか。それは音楽を作るミュージシャンも同じなのかもしれませんが。どこが完成かということですね。
y ここでいいという声が聞こえるんですよ。上から、ここでやめろと。
o おぼろげに、上からね。
y おぼろげに(笑)。
▷逆にやりすぎたって場所もありますか?
y ありますね。そういうところは描き直したりしますね。あるよね、音楽でも。
o あるけど。
y 何を持って完成とするか。
o そうですね。
y ストンと落ちる時がある。
o 落ちたんですか。
y うん、まあ。
o 落とすしかない、と。
y 落とすしかない。
■ 他に質問はありませんか。何かありましたら、この後も会場におりますので、気軽に声をかけていただければと。ちなみにお2人は、何か夏らしいことはやりましたか。
o 今日ですよね。屋上で宮坂遼太郎くんの独奏を空の下で聴いたというのが夏らしい。
y 良かったね~。
o 良かった。忙しかったですからね。
y 真っ暗にした部屋でずっと体育座りして……?
o 泣いてた(笑)。
y だろうね。いや今宵をその、きみの寂しかった夏一番の思い出にしてよ。私は……病に臥していたので。蝉の声がほんっとに聞きたくて聞きたくて……。あとはただただ、この展示の準備に忙しかったですね。
■ お時間が長くなってしまったのですが、座談会は以上になります。この後、サインを描いてほしい方は、会場に燿児さんがおりますので、気軽に声をかけてください。漫画やグッズも販売しておりますので、ぜひチェックしてみてください。また屋上では、宮坂遼太郎さんがいらっしゃいますので、ぜひ楽しんで帰ってください。みなさんありがとうございました。
(書き起こし・編集/武田由紀子、写真・音源提供/TORA4イベント参加者の皆さま)
『TORA TORA TORA TORA』
ページ数 140P / 定価 ¥2000(税別) / 発売元 東南西北kiken / 日本語(英訳付き)
ご購入はこちら